スピード矯正研究会海外セミナー企画

スピード矯正研究会海外セミナー企画 THE WILCKODONTICSR SEMINAR

 

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10月6、7日の2日間、米国ペンシルバニア州エリーにてウィルコドンティクスセミナーに参加してきました。日本からシカゴを経由してエリーまで22時間。大変な道のりでした。

ウィルコドンティクスはAOO(Accelerated Osteogenic
Orthodontics )やPAOO(Accelerated Osteogenic
Orthodontics)とも言われます。矯正治療にコルチコトミーと骨移植を組み合わせることで、歯の移動速度を上昇させながら歯周組織の強化を行う手法です。

コルチコトミー併用矯正を以前から行ってきた我々が、なぜ今更ウィルコドンティクスなのか。スピード矯正研究会は寿谷教授のSuya法コルチコトミーを行ってきましたが、ウィルコドンティクスの手技について以前から疑問を持っていました。ウィルコドンティクスの最初のケースが発表されてから20年が経過した今だからこそ、その予後とエビデンスについて新しい情報が得られるだろうというDr.深沢の御意見が受講動機です。

今回スピード矯正研究会から参加したドクターは、正会員・準会員を合わせて13名でした。セミナー参加者の中では最も大所帯でした。移動の疲れと時差もありましたが、初日からディスカッションが盛り上がりました。

 

以下、主なトピックとディスカッションをまとめました。

・歯の移動のバイオロジーについて

Dr.Wilckoは歯の移動速度の上昇はRAP(Regional Accelerate Phenomenon)によるものであり、Suyaのいうような骨ブロック説ではないと説明していました。しかし、RAPだけでは説明できない部分、例えば歯根膜延長術や圧迫骨短縮法などは物理的な要因が大きく関与しています。あるいは、Photobiomoduration等のレーザー照射は炎症ではなく治癒機転で歯の移動速度を上昇させています。以上の事から、RAPだけが歯の移動速度を上昇させているとは言えません。

 

・骨補填材について

ウィルコドンティクス発表当初はBio-ossRというウシ由来の骨補填材を100%で用いていましたが、現在はDFBDAというヒト由来の他家骨と混ぜて使っています。ヒト由来とウシ由来の移植材料を2:1や1:1でケースによって使い分けていましたが、その基準などは特に無いようです。補填材をかなり多量に用いますが、結果的に吸収あるいは漏出し、実際には使用した量の1/3程度が安定した骨になっているようでした。また、10代前半の矯正患者にもウシやヒト由来の他家骨を移植しています。

銀座矯正歯科では、ピエゾ機器によるコルチコトミー矯正(骨補填材を用いない)を行った部位の骨が増生している事を患者さんのCT像から確認しています。Dr.Wilcko(兄)もまた、骨補填材を使用していないケースにおいても骨が増生している事は確認しているそうです。

・コルチコトミー(皮質骨削除)とフラップのデザイン
Suya法コルチコトミーでは根尖側の水平なカットラインを設定していますが、ウィルコドンティクスでは水平カットを入れずにディンプル(穴)を開けています。また、歯肉の翻転(フラップ)はSuya法と同じく上下顎共に頬舌側で行っていましたが、我々は舌側へのアプローチは現在行っていません。手術時間の短縮と、舌側へのアプローチを行わずとも十分な効果を得られることが確認できていることが理由です。

・埋伏犬歯の牽引

故Dr.Kokichが埋伏犬歯についての文献を発表していますが、Dr. Wilckoも埋伏犬歯の治療に力を入れているようです。二日目の講義のほとんどがこの内容でした。埋伏犬歯の牽引時も大きく骨削除し、補填材を併用していましたが、やはり人種による骨の厚みの差を大きく感じました。

 

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Dr.Wilckoに症例発表の機会を頂けないか直談判したところ、快く受けて下さいました。二日目午前中の終わりに「Speed Orthodontics」というテーマで発表を行いました。その中ではスピード矯正の定義、寿谷教授、PGIとスピード矯正研究会について銀座矯正歯科のスピード矯正症例やコルチコトミー併用矯正症例を30分程度で説明し、海外のドクターとのディスカッションを行いました。なぜ歯肉の翻転(フラップ)を行わないのか。なぜ骨補填材を使用しないのか。低侵襲かつ最大限の効果を得るためにDr.深沢が研究してきた事を解説しました。

 

講義終了後はDr.Wilckoが食事会を設けて下さり、オハイオ州立大学矯正科の出口准教授とペンシルベニア大学Perio-Orthoコースを卒業したDr.松本にも参加していただきました。やはり本音を聞けるのはお酒の席なのでしょうか、食事会でもディスカッションが盛り上がり、Dr.Wilckoには丁寧に解説していただきました。

 

来年もスピード矯正研究会として海外セミナーへの参加が決まっています。ホームページで情報を公開することもありますが、ほとんどがクローズな情報として扱っています。そのため、本当に有益な情報は会員の先生方だけにお伝えしています。矯正治療期間のコントロールにご興味のある先生は、ぜひスピード矯正研究会にご入会ください。

 

銀座矯正歯科 アシスタントドクター 中嶋亮