スピード矯正研究会6月の論文要約

Efficiency of piezotome-corticision assisted orthodontics
in alleviating mandibular anterior

crowding-a randomized clinical trial

Flavio Uribe, Leyla Davoody,
Rana Mehr, Yasas S.N. Jayaratne, Khalid Almas, Takanori Sobue, Veerasathpurush
Allareddy and Ravindra Nanda

European Journal of
Orthodontics
, 2017, Mar 20

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矯正のスピード治療を行う上では最新の知識と情報を得ながら、より良い技術を患者さんに提供する事だと思います。

今回の論文はピエゾシジョン本法の術式とは異なる論文のため、非常に誤解を招きやすい論文ですが、異なる術式ではピエゾシジョン本来の効果を得られないという確認になりました。

まずは、以下の論文の要約をご覧ください。

 

目的:

この臨床試験の目的は従来の矯正と比較して ピエゾシジョン(ピエゾ機器を用いた低侵襲性スピード矯正)で下顎前歯の整列にかかる期間の調査である。

対象と方法: 矯正治療を行う成人(41人を対象)で下顎前歯に 5 mm 以上の叢生がある患者を被験者としました。約半数の患者にピエゾシジョンを行い、4-5週間おきに資料を記録した。

結果: 29人 (16 実験および 13 コントロール)
の研究の結果、下顎前歯の叢生解消までに必要とする日数はピエゾシジョン(102.1 ± 34.7 日) に対して通常の矯正(112
± 46.2 日)の2群間に顕著な有意差は認められなかった。

結論:本研究では、ピエゾシジョンが下顎前歯の叢生を整列させるより有効であるという根拠は認められなかった。 

 

以上が論文の要約になります。

他の多くの論文ではピエゾシジョンに類する外科的手法を用いて歯の移動速度の上昇が得られているにも関わらず、なぜこの論文では反対の結果が起きたのでしょうか?

 

ヒントは論文の本文中にもありました。

以下の一節です

One main difference between
the studies was the depth of the piezocision. The IRB of our institution only
allowed to penetrate into the bone cortex up to 1 mm instead of 3 mm described
in the technique, since they considered that root injury was likely with deeper
penetration.

It may be therefore
speculated that a surgical insult that also involves the trabecular bone may be
more effective in affecting the bone remodelling processes and thus increase
the rate of tooth movement.

研究の主な違いの1つは、ピエゾシジョンの骨への到達深度であった。 我々の施設では、根の損傷が起こる可能性が高いと考えたためピエゾシジョン本法で説明されている3mmではなく、1mmまでしか骨削除を行わなかった。

したがって3mmの骨削除を行う他の論文の術式であれば、海綿骨までの外科的アプローチは骨再生サイクルに影響を与える上でより効果的であり、歯の動きの速度を増加させる可能性があると推測される。

 

とありました。本文中に紹介されている他のピエゾシジョンの論文をいくつか調べてみると、やはり皮質骨への切り込みの深さは3㎜でした。この論文では歯根の損傷を考慮して1㎜しか骨削除を行わなかったとありますが、これがこの論文では治療期間が短縮されなかった要因の一つであることが示唆されます。 

矯正のスピード治療は日進月歩ですが、このような反対論文も重要な一歩なのです。また、論文等で最新の知識を学ぶことは大切ですが、その結果や著者の書いた要約だけを読んで鵜呑みにして終わりにしてしまうと、効果があるものも、効果が無いと結論付けるような誤解を生む可能性があります。

よって我々スピード矯正研究会では、論文の全文をしっかりと翻訳し、その参考文献にも目を向けて日々正しい知識を得るための定例勉強会を行っております。

それがこの分野での我々の意義であり、より良い治療を患者様に提供する我々のすべきことだと思います。

 

翻訳担当: 福本 卓真