7月の抄読会の要約

小児の閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)のための口腔内装置および機能的矯正装置

Oral appliances and functional orthopaedic appliances forobstructive sleep apnoea in children

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要約

このレビューの意義
小児期におけるOSASは一般的な状態であることが示されており、しかしまた未治療のまま放置すると他の多くの医学的および/または社会的問題を引き起こす可能性のある疾患でもある。 多くの成人のOSASは小児期または青年期に開始するため、小児期のOSASを認識することの重要性と適切な治療の必要性が強調され、成人期の長期的合併症を避けるべきである。 この問題が早期に認識され治療されれば、医療制度への経済的コストを削減し、罹患者の生活の質を改善する可能性がある。

目標

小児のOSASに対する口腔内装置(Oral Appliances、OA)または機能的矯正装置(Functional Appliances, FA)の影響を評価すること。

研究対象の選択基準
15歳以下の小児における、すべてのタイプのOAおよびFAをプラセボまたは無処置と比較した無作為化または準ランダム化比較試験。

主な結果

686件の文献のうちレビューとして採用できる文献は、23人の子供に対してOAと無治療群を比較した1つの文献(Villa MP, Bernkopf E, Pagani J, Broia V, Montesano M, Ronchetti R. Randomized controlled study of an oral jawpositioning appliance for the treatment of obstructive sleep apnea in children with malocclusion. American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2002;165(1):123–7.)のみであった。
この文献では昼間の症状(睡眠不足、過敏性、疲労、学校の問題(社会性)、朝の頭痛、朝の喉の渇き、口呼吸と鼻づまり)と夜間の症状(習慣的ないびき、不安定な睡眠と不眠、アンケートで測定した悪夢)について報告している。無治療とOA使用群を比較し、6ヶ月のフォローアップの前後の各グループを分析した結果を発表した。結果として治療群には良好な結果が認められた。AHI、夜間の症状(習慣的ないびき、浅い眠り)と日中の症状(眠気、神経過敏、疲労感、起床時ののどの渇き、口呼吸、鼻詰まり)が改善した。ところがレビュワーが6ヶ月での2グループを比較すると、結果がオリジナルの研究で提示されたものほど良好では無かった。レビュワーが治療群で認めた良好な治療結果は、AHI、夜間の症状(習慣的ないびき、浅い眠り)と日中の症状(口腔呼吸、鼻詰まり)である。当該文献は単一の研究によっていくつか良好な結果を示したが、非無作為な年齢の割り当て、割り当て隠蔽無し、盲検化無し、サンプルサイズの計算報告無し、無作為抽出された患者と分析された患者数の違い、フォローアップ数に対して高率な脱落者数、包括解析(ITT分析)無し等の方法論的な問題に対して慎重に考慮するべきである。したがって当該文献は高リスクのバイアスと非常にエビデンスが低いと評価された。

レビュワーの結論

OAまたはFAは、無呼吸の危険因子である頭蓋顔面奇形を有する小児の治療において、補助的なものとして特定の場合においてのみその使用を考慮され得る。しかしながら、小児におけるOSAS治療のためのOAおよびFAの有効性を支持または反論するエビデンスは不十分である。

 

以下、担当者より

今回のレビューでは、条件に合致した文献は1件のみであり、結果として小児期OSASに対する口腔内装置の治療効果のエビデンスは非常に低いと報告されている。レビュー中にも記載はあるが、これは「エビデンスが非常に低い効果」であって、「非常に効果が低いということのエビデンス」として解釈されないようにする必要がある。つまり、効果はあるが根拠がないということである。しかし、EBM(エビデンスを用いた医療)を行うことを善とする医療ガイドラインの策定が進む中では、このような根拠がない治療は行われるべきではない。

近年、国内の商業誌や学会発表において、所謂「拡大装置(顎の幅を広げる装置)」や矯正治療によって呼吸機能の改善がなされたという発表を散見する。矯正歯科の診断に用いられる側方セファログラム分析(立位および水平位)を用いて気道幅の変化を測定し、気道幅の拡大=呼吸機能の改善という報告もある。昼間の呼吸機能の問題が生じている場合、肺や気管支などの呼吸器の重篤な医科的疾患を患っている可能性があるため、気道幅の変化では原因の除去とは言えない。また、OSASは睡眠時の機能の問題であって昼間の気道幅の形態変化ではこれを診断することはできない。OSASの診断は医科によるPSG(睡眠時ポリソムノグラフ)検査が必要であり、歯科ではOSASを診断することはできない。よって、矯正歯科単科では何を以てOSASと診断し、何を以てOSASが改善されたかを評価することができない。

外科的に上顎骨を側方拡大することで抜歯矯正を回避し、呼吸機能を改善したという報告がある。非抜歯矯正は時代のニーズであり、患者側もそれを望んでいることは理解できる。しかし、非抜歯治療を選択するだけの根拠がそこにあるのだろうか。歯槽骨幅を逸脱した歯列拡大は矯正治療後の歯肉退縮につながる可能性も否定できない。空隙を得るための過度のIPRによって歯冠形態を著しく変化させることにも疑問が残る。また、呼吸機能を評価したデータの添付がなければ、客観的評価は難しい。包括的な診査診断に基づき抜歯・非抜歯を決定することが大前提であり、盲目的な非抜歯治療は批判されるべきである。

2次元のレントゲン写真と石膏模型の変化だけを評価する「品評会」のような症例報告。「やってみた」というようなエビデンスの質が低いような商業誌での発表。海外発の治療方法や商品を日本に輸入する、流行に乗ったビジネスモデルのような矯正治療。
矯正歯科が美容ではないと主張するならば、エビデンスの積み重ねとEBMを行うことがその道であると主張したい。

翻訳担当 中嶋亮