2018年2月20日 スピード矯正研究会セミナー

2018年2月20日 スピード矯正研究会セミナー

講師:台北医学大学付属医院口腔医学院歯学矯正学主任及び副教授

蔡 吉陽 先生 (Chi Yang Tsai)

内容:今回のTsai先生(サイ先生)の講演では、加速矯正の方法の分類とその歴史を踏まえて最新の研究内容をお話しして頂きました。

 

加速矯正の目的:

通常2年~3年の治療期間がかかる歯科矯正治療において、治療期間の短縮は、治療期間中の虫歯や歯周病のリスクを下げるだけでなく、患者さんの満足度を上げることにつながると考えられる。

 

加速矯正の分類:

・薬による内科的なアプローチによるもの(注射によるものが一般的で、非常に強い痛みを伴う、効果も疑問)

・機械的な刺激によるもの(レーザーによるものやバイブレーションによるものなどがある)

外科的刺激によるもの(現在最も信頼でき、効果が認められている)

 

加速矯正の機序:

通常の歯科矯正での歯の移動までの流れは

矯正治療の加重→炎症の発生→生体反応→骨代謝→歯の移動

となっているが、

外科的刺激により、より強い炎症を発生させることが出来るので、その結果として、より歯を大きく動かすことができる。

 

加速矯正の歴史:

1983年、形成外科医のDr,Frost がRAP(Regional Acceleratory Phenomenon)を提唱した。RAPは骨にダメージがあると、その骨の局所において、破骨細胞の増加と伴う一連の生体反応が起こり、一時的に骨密度が下がる分解期と、またそれに引き続き、骨芽細胞が増加し、骨密度が増す合成期が来るという流れを理解するために役立つ理論であり、この分解期の一時的な骨密度の減少期を利用して、現在の加速矯正がなりたっている。

現在の外科的加速矯正は

1959年のDr,Koleによる皮質骨除去からはじまり、その流れを汲んだ歯肉剥離を行うPAOOや、より低侵襲にするため歯肉剥離をしないでメスをもちいて皮質骨貫通をするコルチシジョンや、同様にメスではなく小さな径の歯科器具で皮質骨穿孔を行うマイクロパーフォレーションなどの術式が開発されてきた経緯がある。

 

サイ先生の研究:

ラットを使って、歯の移動に外科的手技を矯正治療に組み込むことで、

早く動く事を確認し、どのような外科的手法がどのような加速結果となるかを研究された。

具体的にはマイクロパーフォレーション(MOP)を行って矯正力をかけたラットと、コルチシジョン(C)を行って矯正力をかけたラットと、何もしないで矯正力をかけたラットの歯の移動量を比較した。

 

結果:

矯正力をかけ始めた1~2週間は何もしていないラットに比べて、MOPやCをしたラットは2倍から3倍のスピードで動いた。

骨密度ではやはり、何もしていないラットよりもMOPやCをしたラットの方が、低かった。

破骨細胞の量も何もしていないラットに比べて、3週目で約3倍、6週目で約2倍の数に増加していた。

マイクロパーフォレーションとコルチシジョンには大きな差は見られなかった。

 

サイ先生の加速矯正の考え:

その他世界中の研究者のデータを見ても、外科手技を取り入れた矯正治療では約1.5倍~4倍程の歯の移動が認められており、うまく利用すれば治療期間の短縮が見込めるだろう。ただし、この加速期間はある程度時間が過ぎると、通常の骨の状態に戻ってしまうので、矯正治療期間中に効果の減衰とともに、再度の外科的刺激が必要となるだろうと、考えられる。

 

今回の講演を聞いて

サイ先生は実際に外科的な加速矯正を利用した多くの臨床ケースをみせて頂けました。直径1.2㎜のドリルを用いてMOPを行った症例では、通常では6ヶ月はかかると考えられる下顎の大臼歯の移動などを2ヶ月で終了している症例などは、非常に勉強になり、明日の臨床に活かせる大事な内容でした。

また、我々スピード矯正研究会としても、今後ともサイ先生をはじめとする台湾歯科矯正界や世界の歯科矯正医と連携して、さらなる世界の最先端で良質な医療を提供できるように研鑽して行きたいと思いました。

(スピード矯正研究会:福本卓真)